13,447
年間の遺産分割調停件数
(令和3年度)
75%
遺産5,000万円以下でも
トラブル発生
3年
相続登記の義務化期限
(2024年4月施行)

相続が発生したとき、多くの方が直面するのが「遺産をどう分けるか」という問題です。家族だから話し合えば大丈夫、と思っていても、いざ相続となると意見が対立し、思わぬトラブルに発展するケースは少なくありません。

実際、裁判所の司法統計によれば、令和3年度に全国で13,447件の遺産分割調停事件が発生しています。しかも、その約75%が遺産総額5,000万円以下のケースです。「うちは財産が少ないから大丈夫」という考えは危険なのです。

2024年4月から相続登記が義務化

法改正により、不動産を相続した場合、相続を知った日から3年以内に相続登記をすることが義務となりました。違反すると10万円以下の過料が科される可能性があります。遺産分割協議を先延ばしにすることは、もはや許されない時代になったのです。

出典: 法務省「不動産を相続した方へ ~相続登記・遺産分割を進めましょう~」

この記事では、遺産分割協議とは何か、どのように進めればよいのか、トラブルを避けるためのポイントまで、法的根拠を示しながらわかりやすく解説します。

1. 遺産分割協議とは?基本を理解する

遺産分割協議の定義と法的根拠

遺産分割協議とは、相続人全員が参加して、被相続人(亡くなった方)の財産をどのように分けるかを話し合い、合意する手続きのことです。

民法上の根拠

民法第907条により、「共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる」と定められています。

また、民法第909条では、「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる」とされ、協議が成立すると相続開始時点から各相続人が財産を取得していたものとして扱われます。

出典: 日本公証人連合会「3 遺産分割協議」

遺産分割協議が必要なケース

遺産分割協議が必要となるのは、主に以下のケースです:

遺産分割協議が必要な場合

1. 遺言書がない場合

被相続人が遺言を残していない場合、相続人全員で話し合って遺産の分け方を決める必要があります。

2. 遺言書はあるが、法定相続分と異なる分割をする場合

遺言書があっても、相続人全員が合意すれば、遺言と異なる内容で分割することが可能です。

3. 不動産の相続登記をする場合

不動産を特定の相続人が単独で相続する場合、遺産分割協議書が必要です。

4. 金融機関での手続きを円滑に進めたい場合

複数の金融機関で手続きをする際、遺産分割協議書があれば各機関での署名・押印の手間が省けます。

遺産分割協議が不要なケース

一方で、以下の場合は遺産分割協議書の作成が不要です:

  • 遺言書で全財産の分割方法が明確に指定されている場合 - 遺言に従えば協議は不要です

出典: 三菱UFJ銀行「遺産分割協議書とは?作成の流れや手続きをくわしく解説」、相続専門税理士法人レガシィ「遺産分割協議書はどんな時に必要か」

2. 遺産分割協議の進め方 - 7つのステップ

遺産分割協議を円滑に進めるためには、正しい手順を踏むことが重要です。以下、7つのステップで解説します。

1

相続人の確定

被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得し、法定相続人全員を確定させます。認知した子や養子も相続人に含まれるため、漏れがないよう慎重に確認することが重要です。

2

相続財産の調査と確定

被相続人が所有していた全ての財産を調査します。不動産、預貯金、株式などのプラスの財産だけでなく、借入金やローンなどのマイナスの財産も含めて確定し、財産目録を作成します。

3

法定相続分の確認

民法で定められた法定相続分を確認します。これは協議の目安となる割合で、必ずしもこの通りに分ける必要はありませんが、基準として理解しておくことが大切です。

4

遺産分割協議の実施

相続人全員が参加して、各財産の分割方法について話し合います。全員が一堂に会する必要はなく、メールや手紙でのやり取りも可能ですが、全員の合意が必要です。

5

遺産分割協議書の作成

合意した内容を文書にまとめます。誰がどの財産をどれだけ相続するかを明記し、相続人全員が署名・実印で押印します。相続人の人数分作成し、各自1通ずつ保管します。

6

各種名義変更手続き

遺産分割協議書をもとに、不動産の相続登記、預貯金の解約・名義変更、株式の名義変更、自動車の名義変更などを行います。

7

相続税の申告(必要な場合)

相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続開始から10ヶ月以内に相続税の申告と納税が必要です。

全員参加が絶対条件!

遺産分割協議は相続人全員の合意が必要です。一人でも欠けた場合、その協議は無効となります(民法第907条)。行方不明の相続人や認知症の相続人がいる場合は、家庭裁判所で不在者財産管理人や成年後見人を選任する必要があります。

出典: 日本公証人連合会「3 遺産分割協議」

3. 遺産分割の3つの方法

遺産分割には、大きく分けて3つの方法があります。相続財産の内容や相続人の状況に応じて、適切な方法を選びましょう。

現物分割
📝 内容
財産をそのままの形で分ける方法。例:長男が実家、次男が預金を取得
✅ メリット
シンプルでわかりやすい。各相続人が具体的な財産を取得できる
⚠️ デメリット
財産の価値が不均等になりやすい。公平な分割が難しい
代償分割
📝 内容
特定の相続人が財産を取得し、他の相続人に金銭を支払う方法
✅ メリット
不動産など分けにくい財産でも公平に分割できる。実家を残せる
⚠️ デメリット
代償金を支払う相続人に資金力が必要。税務上の注意点あり
換価分割
📝 内容
財産を売却して現金化し、その代金を分ける方法
✅ メリット
公平な分割が可能。誰も財産を引き継がなくてよい
⚠️ デメリット
売却に時間と費用がかかる。思い出の品を失う

複数の方法を組み合わせることも可能

実務では、これらの方法を組み合わせて分割することも多くあります。例えば、不動産は現物分割、預貯金は換価分割、株式は代償分割といった具合です。相続人全員が納得できる方法を柔軟に検討しましょう。