空き家相続放棄と相続土地国庫帰属制度の活用法
📑 目次
空き家相続放棄と相続土地国庫帰属制度の活用法
相続放棄と相続土地国庫帰属制度の基本
相続放棄とは
相続放棄とは、相続人が被相続人(亡くなった人)の財産を一切相続しないことを家庭裁判所に申述する手続きです。
📖 相続放棄の特徴
- すべての財産を放棄 - プラスの財産もマイナスの財産も含めて、すべてを放棄
- 期限がある - 相続開始を知った日から3ヶ月以内
- 取消しができない - 一度受理されると原則として撤回不可
- 法的効力 - 最初から相続人ではなかったことになる
相続土地国庫帰属制度とは
相続土地国庫帰属制度とは、令和5年(2023年)4月27日に施行された新しい制度で、相続または遺贈により取得した土地を国に引き取ってもらえる仕組みです。
📖 相続土地国庫帰属制度の特徴
- 土地のみを手放せる - 他の財産は相続できる
- 期限がない - 相続後、いつでも申請可能
- 審査がある - すべての土地が認められるわけではない
- 費用がかかる - 審査手数料と負担金が必要
両制度の比較
| 項目 | 相続放棄 | 相続土地国庫帰属制度 |
|---|---|---|
| 対象 | すべての相続財産 | 土地のみ |
| 期限 | 3ヶ月以内 | いつでも可能 |
| 費用 | 数千円(収入印紙等) | 数十万円〜(負担金) |
| 手続き先 | 家庭裁判所 | 法務局 |
| 審査 | 形式的審査 | 実質的審査(厳格) |
| 他の財産 | すべて放棄 | 相続できる |
| 借金 | 免責される | 相続する |
| 撤回 | 原則不可 | 却下前なら可 |
相続放棄のメリット・デメリット
メリット
✅ 相続放棄のメリット
- 借金を相続しなくて済む - 被相続人の借金、住宅ローン、保証債務などを引き継がない
- 費用が安い - 収入印紙800円+郵便切手代のみ(弁護士に依頼しない場合)
- 手続きが比較的簡単 - 必要書類を家庭裁判所に提出するだけ
- 管理責任から解放される - 空き家の管理義務がなくなる(一定の条件付き)
デメリット
❌ 相続放棄のデメリット
- すべての財産を放棄 - 預貯金、株式、不動産など、プラスの財産も相続できない
- 期限が短い - 相続開始を知った日から3ヶ月以内。期限を過ぎると原則として放棄できない
- 取消しができない - 一度受理されると、原則として撤回不可
- 管理義務が残るケース - 次順位の相続人がいない場合、相続財産管理人が選任されるまで管理義務が継続
- 家族に影響 - 自分が放棄すると、次順位の相続人(兄弟姉妹など)に相続権が移る
⚠️ 相続放棄の重大な注意点
相続財産を処分すると放棄できなくなります。相続放棄を検討している場合、被相続人の財産には一切手を付けてはいけません。以下の行為は「単純承認」とみなされ、相続放棄ができなくなります:
- 預金の引き出し
- 不動産の売却
- 遺品の処分や形見分け
- 家賃の受領
ただし、葬儀費用の支払い、遺体の引き取り、日常的な管理行為は認められる場合があります。
相続土地国庫帰属制度のメリット・デメリット
メリット
✅ 相続土地国庫帰属制度のメリット
- 土地のみ手放せる - 預貯金や他の財産は相続できる
- 期限がない - 相続後、何年経っても申請可能
- 管理から解放される - 土地の管理義務、固定資産税の負担がなくなる
- 相続人全員が放棄する必要なし - 共有者全員の同意があれば申請可能
デメリット
❌ 相続土地国庫帰属制度のデメリット
- 審査が厳しい - 建物がある土地、担保権がある土地などは却下される
- 費用が高い - 審査手数料(1.4万円/筆)+負担金(20万円〜)が必要
- 建物の解体が必要 - 空き家が建っている場合、事前に解体しなければならない
- 却下される可能性 - すべての土地が認められるわけではない
- 時間がかかる - 審査に数ヶ月〜1年程度かかる場合も
国庫帰属が認められない土地
以下の土地は、原則として国庫帰属が認められません。
| 却下事由 | 具体例 |
|---|---|
| 建物がある土地 | 空き家、倉庫、工作物がある |
| 担保権が設定されている | 抵当権、根抵当権、地上権など |
| 通路など他人の使用が予定されている | 私道として使われている土地 |
| 土壌汚染がある | 有害物質による汚染 |
| 境界が不明確 | 隣地との境界が争われている |
| 崖がある土地 | 勾配30度以上、高さ5m以上の崖 |
| 管理に過分な費用がかかる | 樹木の伐採、工作物の除去が必要 |
| 隣地との争いがある | 所有権や境界で係争中 |
💡 事前準備が重要
国庫帰属を認めてもらうには、事前に建物を解体し、境界を確定し、土地をきれいな状態にする必要があります。これには数百万円の費用がかかる場合もあります。
相続放棄の手続きと費用
相続放棄の手続きの流れ
相続開始の確認
被相続人が死亡した日、または自分が相続人であることを知った日を確認します。この日から3ヶ月以内に手続きが必要です。
必要書類の準備
戸籍謄本、住民票、相続放棄申述書などを準備します。
家庭裁判所に申述
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続放棄申述書と必要書類を提出します。
照会書への回答
家庭裁判所から照会書が送られてくるので、回答して返送します。
受理通知
問題がなければ、1〜2週間で相続放棄申述受理通知書が送られてきます。
受理証明書の取得
必要に応じて、相続放棄申述受理証明書を取得します(債権者への証明など)。
相続放棄に必要な書類
- 相続放棄申述書 - 家庭裁判所の書式
- 被相続人の戸籍謄本(除籍謄本)
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人(放棄する人)の戸籍謄本
- 収入印紙 800円
- 郵便切手(裁判所によって異なる、500円程度)
💡 追加書類が必要なケース
被相続人との関係によって、追加の戸籍謄本が必要になる場合があります。例えば、兄弟姉妹が相続放棄する場合は、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍が必要です。
相続放棄の費用
| 項目 | 費用 |
|---|---|
| 収入印紙 | 800円 |
| 郵便切手 | 500円程度 |
| 戸籍謄本等の取得費用 | 3,000円〜10,000円 |
| 司法書士への依頼(任意) | 30,000円〜50,000円 |
| 弁護士への依頼(任意) | 50,000円〜100,000円 |
| 合計(自分で手続き) | 約5,000円〜15,000円 |
相続土地国庫帰属制度の手続きと費用
国庫帰属制度の手続きの流れ
事前準備
建物がある場合は解体、境界が不明確な場合は測量を行います。この段階で数百万円かかる場合も。
事前相談(任意)
法務局の窓口で、対象土地が国庫帰属の要件を満たしているか相談できます。
申請書の提出
土地の所在地を管轄する法務局に、承認申請書と必要書類を提出します。審査手数料も納付。
実地調査・審査
法務局の職員が現地調査を行い、要件を満たしているか審査します。期間は数ヶ月〜1年程度。
承認・却下の通知
承認された場合は負担金の納付通知が、却下された場合は却下通知が送られてきます。
負担金の納付
承認された場合、負担金を納付します。金額は土地の種類・面積により異なり、最低20万円〜。
国庫帰属
負担金の納付が確認されると、土地の所有権が国に移転します。
国庫帰属制度に必要な書類
- 承認申請書
- 土地の位置・形状を明らかにする図面(公図、地積測量図など)
- 土地の写真
- 相続により取得したことを証明する書類(戸籍謄本、遺産分割協議書など)
- 印鑑証明書(共有地の場合、全員分)
- その他、個別に必要な書類(境界確定図、建物滅失登記など)
国庫帰属制度の費用
| 項目 | 費用 |
|---|---|
| 審査手数料 | 14,000円/筆 |
| 負担金(宅地) | 面積に応じて算定(最低20万円〜) |
| 負担金(農地・森林) | 面積に応じて算定 |
| 建物解体費用(建物がある場合) | 1,000,000円〜3,000,000円 |
| 測量費用(境界未確定の場合) | 300,000円〜600,000円 |
| 書類取得費用 | 10,000円〜30,000円 |
| 司法書士・土地家屋調査士への依頼(任意) | 100,000円〜300,000円 |
| 合計(建物なし・境界確定済み) | 約25万円〜50万円 |
| 合計(建物あり・境界未確定) | 約200万円〜400万円以上 |
⚠️ 負担金の算定方法
負担金は、国が土地を管理するために必要な10年分の費用を基準に算定されます。具体的な金額は以下の通りです:
- 市街地の宅地:面積に関わらず約20万円
- その他の宅地:面積に応じて算定
- 農地・森林:面積に応じて算定(宅地より安い傾向)
どちらを選ぶべきか?判断基準
相続放棄と相続土地国庫帰属制度、どちらを選ぶべきかは状況によって異なります。以下の判断基準を参考にしてください。
💡 選択フローチャート
→ YES:相続放棄を検討
→ NO:Q2へ
→ YES:国庫帰属制度を検討
→ NO:相続放棄を検討
→ NO:国庫帰属制度しか選べない
→ YES:Q4へ
→ YES:解体費用を確認。高額なら相続放棄を検討
→ NO:Q5へ
→ NO:測量費用を確認。高額なら相続放棄を検討
→ YES:国庫帰属制度が利用可能
ケース別おすすめ選択肢
| ケース | おすすめ | 理由 |
|---|---|---|
| 借金が多い | 相続放棄 | 借金を相続しなくて済む |
| 預貯金も相続したい | 国庫帰属 | 土地だけ手放せる |
| 建物付き・解体費用が高額 | 相続放棄 | 解体不要 |
| 更地・境界確定済み | 国庫帰属 | 承認されやすい |
| 相続開始から3ヶ月以上経過 | 国庫帰属 | 期限なし |
| 全財産が不要 | 相続放棄 | 費用が安い |
注意すべき重要ポイント
① 相続放棄しても管理義務が残るケース
⚠️ 相続放棄後の管理義務
相続放棄をしても、次順位の相続人が相続財産の管理を始めるまで、管理義務が残ります(民法940条)。つまり:
- 次順位の相続人がいない、または全員が放棄した場合
- 相続財産管理人が選任されるまで
管理義務が継続する可能性があります。この期間中に空き家が倒壊して他人に損害を与えた場合、責任を問われる可能性があります。
② 相続財産管理人の選任
相続人全員が相続放棄し、相続人が不存在となった場合、相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てる必要があります。
- 申立人:利害関係人(債権者、近隣住民など)または検察官
- 費用:予納金として20万円〜100万円程度
- 効果:管理人が財産を管理・清算し、最終的に国庫に帰属
💡 予納金は戻ってくる?
相続財産から管理人の報酬や費用を支払えた場合、予納金は返還されます。しかし、財産が少ない場合は返還されないことが多いです。
③ 他の相続人への影響
自分が相続放棄をすると、次順位の相続人に相続権が移ります。
- 子が全員放棄 → 親(直系尊属)へ
- 親も放棄 → 兄弟姉妹へ
- 兄弟姉妹も放棄 → 相続人不存在
⚠️ 家族間のトラブルに注意
自分だけ相続放棄すると、他の親族に負担が回る可能性があります。事前に親族と話し合い、全員で放棄するか、別の解決策を探すことをお勧めします。
④ 国庫帰属制度の審査期間
国庫帰属制度の審査には数ヶ月〜1年程度かかることがあります。その間も:
- 固定資産税は発生する
- 土地の管理義務は継続する
- 特定空家に指定されるリスクがある
実例:どちらを選んだか
📌 ケース1:相続放棄を選択
状況:父親が多額の借金(2,000万円)を残して死亡。自宅(評価額500万円)と空き家(評価額100万円)を所有。
選択:相続放棄
理由:借金が財産を大きく上回るため、すべてを放棄することで借金を相続せずに済んだ。
結果:費用は1万円程度で済み、借金から解放された。
📌 ケース2:国庫帰属制度を選択
状況:母親が預貯金1,000万円と山林(評価額50万円、管理困難)を残して死亡。
選択:相続土地国庫帰属制度
理由:預貯金は相続したいが、山林の管理は不可能。更地で境界も確定していたため、国庫帰属が認められた。
結果:審査手数料1.4万円+負担金30万円で済み、預貯金は相続できた。
📌 ケース3:相続放棄を選択(建物解体費用が高額)
状況:祖父が空き家(2階建て木造、築60年)を残して死亡。解体費用は250万円の見積もり。
選択:相続放棄
理由:国庫帰属を利用するには建物解体が必須だが、費用が高額。相続放棄なら1万円程度で済む。
結果:親族全員で相続放棄し、相続財産管理人が選任された。
まとめ
相続放棄と相続土地国庫帰属制度は、空き家問題を解決する有効な手段ですが、それぞれに長所と短所があります。
📌 重要ポイントのまとめ
- 相続放棄:すべての財産を放棄。借金がある場合に有効。期限は3ヶ月。費用は数千円〜
- 国庫帰属:土地のみ手放せる。期限なし。費用は数十万円〜(建物解体が必要な場合は数百万円)
- 借金が多い場合:相続放棄を選択
- 預貯金も相続したい場合:国庫帰属制度を検討
- 建物付き・解体費用が高額:相続放棄が有利
- 更地・境界確定済み:国庫帰属が利用しやすい
- 相続放棄後も管理義務が残る場合あり - 相続財産管理人の選任が必要
- 他の相続人への影響を考慮 - 事前に親族と相談
どちらの制度を選ぶべきか迷ったら、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。早めの相談が、選択肢を広げます。
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